検察庁法改正の廃案を心から歓迎する声明

1 本日,衆議院内閣委員会は,検察庁法改正を含む「国家公務員法等の一部を改正する法律案」(以下「本件法案」という。)について,継続審議とせず,本件法案は廃案となった。
2 本件法案中の検察官に関する勤務延長の特例及び役職定年制の特例措置(以下「本件特例措置」という。)は,内閣又は法務大臣の判断で検察官の勤務や役職を延長することを可能にし,政権が恒常的に検察官人事に介入できる仕組みを作るものであり,検察官の政治的中立性と独立性を脅かし,刑事司法の機能や三権分立をも動揺させかねない重大な問題をはらむものであった。
3 私たちは,本年4月22日から「検事長勤務延長閣議決定の撤回を求め,検察官の勤務延長制度導入に反対する弁護士共同アピール」に賛同を求め,本日までに呼びかけ人(日弁連正副会長・事務総長及び各弁護士会の会長経験者)229人,賛同2798人,合計3027人の全国の弁護士の協力を得た。こうした全国の弁護士の声に基づき,私たちは,これまでに,本件特例措置の導入に反対して記者会見や政党・議員要請等を続けてきた。
 こうした全国の弁護士の声は,全国の弁護士会,地方弁護士会連合会及び日本弁護士連合会による検察官勤務延長に反対する多数の声明や,元検察官らが法務省に提出した意見書等と相まって,本件特例措置がはらむ重大な問題点を明らかにし,市民の共感を呼ぶと共に国会を動かす大きな力となった。
4 重大な問題をはらむ本件法案が,幅広い市民と多数の法律家の反対の声のうねりの中で廃案となったことは重要な成果であり,心から歓迎する。また,短い期間であったが,多くの人々がこの国の司法のあり方や三権分立,民主主義や憲法について議論し合えたことは,今後の社会をよりよいものとする上で貴重な経験となったと確信している。 
5 今回,市民の間に本件法案への反対の声が大きく広まった背景には,この国の法の支配が掘り崩されることに対する強い危機感があった。
 本件法案が廃案になったとはいえ,東京高等検察庁の検事長について違法に勤務延長を行った閣議決定は撤回されておらず,政権による恣意的な勤務延長が再び生じ,再び法の支配が危機に陥る可能性は残されている。私たちは,改めて,上記閣議決定の撤回を求めるとともに,検察官について二度と違法な勤務延長がなされることのないよう,動向を注視していく。
  2020年6月17日
「法の支配の危機を憂う弁護士の会」
共同代表 弁護士 新 倉   修
(東京弁護士会・青山学院大学名誉教授)
共同代表 弁護士 石 田 法 子
(大阪弁護士会・2014年度日弁連副会長)
共同代表 弁護士 新 里 宏 二
(仙台弁護士会・2011年度日弁連副会長)
共同代表 弁護士 内 山 新 吾
(山口県弁護士会・2015年度日弁連副会長)​​​​​​​
検察官への勤務延長制度等の導入を含む検察庁法改正案の継続審議ではなく撤回を求める声明

2020年5月18日

「法の支配の危機を憂う弁護士の会」
共同代表 弁護士 新 倉   修
(東京弁護士会・青山学院大学名誉教授)
共同代表 弁護士 石 田 法 子
(大阪弁護士会・2014年度日弁連副会長)
共同代表 弁護士 新 里 宏 二
(仙台弁護士会・2011年度日弁連副会長)
共同代表 弁護士 内 山 新 吾
(山口県弁護士会・2015年度日弁連副会長)

 政府が今国会に提出している検察庁法改正を含む「国家公務員等の一部を改正する法律案」(以下,同法案中,検察官の定年ないし勤務延長に関する特例措置に関する部分を「本件検察庁法改正案」という。)について,報道によれば,政府が今国会での同法案採決を見送り,改めて秋の臨時国会での成立を目指す方針とされている。
 当会は,本年4月22日から「検事長勤務延長閣議決定の撤回を求め,検察官の勤務延長制度導入に反対する弁護士共同アピール」に賛同を求めるアピール活動を開始し,本日午後3時現在で呼びかけ人(日弁連正副会長・事務総長及び各弁護士会の会長経験者)219人,賛同2747人,合計2966人の全国の弁護士の協力を得ている。こうした多数の弁護士の声に基づき,当会は,これまでに,本件検察庁法改正案に反対して記者会見や政党・議員要請等の活動を行ってきた。
 本件検察庁法改正案については,当会が上記アピールへの呼びかけ・賛同が1500人に達したことを明らかにした5月8日の記者会見以降,多数の芸能人等を含む数百万件の抗議の声がSNSやインターネット上にあふれた。また,元検事総長らや元東京地検特捜部長らの検察OBからも「法の支配の危機」「三権分立の否定につながりかねない」「検察官の勤務延長は必要なく不要不急」など,深刻な危惧を訴える意見が相次いだ。同法案の内閣委員会での審議の際には,コロナ感染が広まる中にもかかわらず,多数の市民が国会を取り囲んだ。
 私たち弁護士が,三権分立,民主主義,法治国家としてのあり方や法の支配の根幹に関わる危機を訴えて上げた声が,こうした多くの良識ある人々の声と立場の違いを超えて響き合う中で,検察への政治介入を制度化する悪法の今国会での成立を阻止できたこと自体,重要な成果であり,心から歓迎したい。
 また,ごく短い期間であったが,多くの人々が,この国の司法のあり方や三権分立,民主主義や憲法について議論し合えたことは,今後の社会をよりよいものとする上で貴重な経験となったと確信している。
 しかし,本件検察庁法改正案の継続審議は,今後に重大な禍根を残す。
 政権が検察の人事に実質的に介入し検察に政治的コントロールを及ぼすことを可能とするような検察官人事制度は,断じて容認できるものではなく,本件検察庁法改正案は直ちに撤回されなければならない。
 私たち弁護士は,本件検察庁法改正案の継続審議ではなく撤回を求めて,引き続き声を上げ続けるものである。
以 上

検事長勤務延長閣議決定の撤回を求め,検察官の勤務延長制度導入に反対する弁護士共同アピール

1 2020年(令和2年)年1月31日,政府は,定年退官する予定だった東京高等検察庁検事長について,国家公務員法(以下「国公法」)第81条の3第1項を適用し,半年間勤務を延長することを閣議決定した。
2 しかし,準司法官として司法権の一翼を担う検察官は,公益の代表者として刑事手続を行い公訴権を独占するなど強力な権限を有し,その職務遂行には政治的中立性と独立性が求められる。そのため,検察官には,他の国家公務員と異なる裁判官に準じた身分保障が与えられている。
 このような職務と責任の特殊性に基づき,検察官については,定年制度の特例が検察庁法第22条に定められ,運用されてきた。同条は,国公法の定年制度の特別法であり,一般法である国公法上の定年制度やこれを前提とする勤務延長が検察官に適用される余地はない。国公法上の定年制度が導入された1981年(昭和56年)の国会審議においても,その旨の答弁が政府から繰り返しなされてきたし,実際に,今回の閣議決定以前に検察官に国公法上の勤務延長が適用された例はない。
 今回の閣議決定は,国公法及び検察庁法の関係条文の文言,その制定・改正の経緯及びこれまでの運用を無視しており,違法・無効である。政府によるかかる恣意的な法解釈は,わが国の民主主義や法治国家としてのあり方の根幹を揺るがすものである。
3 そもそも,検察官の勤務延長を政府の判断で可能とすること自体,政府による検察官の人事への介入を招きやすく,検察官の職務の政治的中立性と独立性が損なわれる恐れがある。
 過去の重大疑獄事件の例に明らかなように,検察官の職務遂行はしばしば政権との緊張関係をはらむが,検察官の勤務延長が政府によって恣意的に運用されれば,検察官の職務遂行の政治的中立性と独立性に重大な疑念が生じ,刑事司法の機能に深刻な影響を与え,ひいては日本国憲法の定める三権分立をも動揺させかねない。
 検察官の勤務延長を政府の判断で可能とすることには重大な問題があるといえる。
4 ところが,このような状況下で政府は,2020年(令和2年)年3月13日,あえて検察官の勤務延長制度を導入する国公法及び検察庁法改正案を国会に提出した。その内容は,検事長ら役職者の勤務延長を内閣・法務大臣の判断に委ねるものである。
 この改正案も,今回の閣議決定と同様,検察官の政治的中立性と独立性を脅かし,さらに政府が恒常的に検察官人事に介入できる仕組みを制度化するに等しいものであって、到底,看過できない。
5 私たち弁護士は,基本的人権と社会正義の実現を使命とする法律家として,違法な本件勤務延長の閣議決定の撤回を求めるとともに、国公法等の一部を改正する法律案中の検察官の定年ないし勤務延長に係る特例措置の部分に強く反対する
「検事長勤務延長閣議決定の撤回を求め,検察官の勤務延長制度導入に反対する
弁護士共同アピール」へのご協力のお願い
2020年4月22日
全国の弁護士の皆様
 日頃の基本的人権の擁護と社会正義の実現に向けた諸活動に対し,心より敬意を表します。昨今のコロナ感染拡大は,市民生活ばかりでなく私たち弁護士の業務にも多大な影響を及ぼしており,皆様も様々な困難な状況の中で御活躍のことと拝察いたします。
 ところで,御承知のとおり,政府は,本年1月31日の閣議において,同年2月7日に定年退官予定であった東京高検検事長について,国家公務員法第81条の3第1項の規定に基づいて勤務を6か月間延長する異例の決定をしました。また,政府は,国会でこの閣議決定の違法性・不当性が議論されている最中に,検察官について内閣・法務大臣の判断による勤務延長を制度化する検察庁法改正を含む国家公務員法改正法案を国会に提出し,同法案は本年4月16日に審議入りしました。コロナウィルス感染拡大によって市民の生命や生活が現に脅かされているという社会の重大な危機に直面し,緊急に審議すべき政策・法案が山積しているにも拘わらず,報道によれば,政府与党は今国会中での同法案の成立を目指しているとのことです。
 私たちは,今回の閣議決定と検察庁法改正は,検察庁幹部の人事に対する政権のコントロールを著しく強化するものであり,準司法官である検察官の職務の政治的中立性と独立性を脅かし,刑事司法の機能を損ない,司法の独立・三権分立をも揺るがしかねない重大な問題であると考えます。また,今回の閣議決定については,国家公務員法第81条の2第1項及び検察庁法第22条等の関連条文の文言,その制定・改正の経緯及びこれまでの運用を無視する違法・無効なものであって,これを放置することはわが国の民主主義や法治国家としてのあり方の根幹を揺るがすものと考えます。
 このような,わが国における法の支配そのものを揺るがすような重大な危機に対し,現在,日弁連,地方弁連及び多数の弁護士会から会長声明が出されておりますが,国会の情勢に鑑み,今こそ,私たち弁護士一人ひとりが声をあげ,世論と国会にこの問題の深刻さを訴えることが求められているといえます。
 私たちは,このような思いから,弁護士共同アピールを全国の弁護士の皆様とともに行います。呼びかけ・賛同への御協力の状況は随時集約し,国会や各政党に私たちの声を届けるとともに記者会見やホームページ等を通じた市民へのアピールを行います。
 御多用のところ誠に恐縮ですが,御協力のほどよろしくお願い申し上げます。 ​​​​​​​

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